2年目の講義が終了
1月16日(土)が2006年度最後の講義となった。これで、「自立と体験」も2クール目が終わったことになる。
2006年度後期については、新しい試みが二つあった。一つは体験講義として、受講している全学生に1回30分のキャンパスのゴミ拾いを果たしたこと。第二は課題の中で「いじめ体験」を書かせたことだ。実は、この両方ともに、実施するに当たってとても迷った経緯がある。
いじめ体験については、やはり学生によっては(まだ)語れる話になっていない。いじめの影響をいまだに負っていて、この問い自体がその学生を苦しめるのではないか、という懸念だった。ただ、ちょうど「いじめ自殺問題」が多発した時期で、学生たちに対して、この問題を投げかけることで、いじめの問題をとおして、自分をもう一度見つめるきっかけにしてほしいと言う思いがあったのだ。
だから、今起こっているいじめ問題に対しての学生の評論ではなく、自分が体験したことを書かせた。そして、ちょっと引き気味に、もしこの問題について書けないと思ったら、無理をしなくていい。それはそれで構わない、という但し書きをつけることにした。
結果的にはやはりこの問題を取り上げてよかった、という思いが今はしている。学生からは3通ほど批判や不満のメールがあった。でも、それぞれに対して、僕がなぜこの問題を取り上げたか、を説明した。それで学生が納得したかどうかは分からないが、僕としては誠実に回答する以外にないと思ったからだ。
僕がこの問題を取り上げてよかったという意味は2つある。ひとつは僕自身がいじめ問題の実態を彼らから学べたということ。もう一つは、かなり多くの学生がやはり自分自身の過去と今を見つめるきっかけとなったようだからだ。これまで、結構いい加減にメールを戻していた学生たちが、自分の体験を振返り、いろいろと考えて、かなりの量のメールを戻してくれた。
今の時点で、このテーマを取り上げて僕が一番学んだことは、いじめの問題も、家族殺人や、大学生の学力問題も、政治の問題も、そういう様々な問題は一段掘り下げた時限では、共通の根っこを持っているのではないか、という発想を得たことだ。まだ、その確信を持てたわけではないが、今の日本あるいは日本人の閉塞感の根源に触れる可能性を今感じている。
さて、もう一つの試みは、体験授業だ。以前から、「自立と体験」という割には、体験があまりないな、ということを自分でも感じていて、体験を導入したいと思っていた。ただ、150名のクラスに僕一人で何かを体験させるというのはなかなか難しかった。
今回、学生課が昼休みにキャンパスのゴミ拾いを、クリーン&グリーンキャンペーンということで始めた。それを聞いたときに、そうだ、学生をグループごとにエントリーさせて、このキャンペーンに参加させよう、と思ったのだった。
こちらの体験協授業についても、実は最初躊躇があった。まずは、昼休みの30分だけで、体験授業なんていえるか、ということ。また、もうひとつは学生たちがまじめに来て、参加してくれるかな、という不安だった。でも、始めてみたらこの不安は簡単に吹っ飛んだ。
まず第1に、体験の感想を書かせたメールを見る限り、多くの学生が楽しんでいた。最初は嫌々という学生も少なくなかったようだが、やっているうちに面白くなったり、あまりの吸殻の多さに憤慨して一生懸命になったりしている。
第2に、中にはいい加減に拾ったりおしゃべりしたり、という学生もいたが、30分キャンパスの地面を見てしかもゴミや吸殻を見て歩くという体験は、一瞬の意識の変化は最低あった。
第3に、多くの学生がキャンパスにいかにゴミや吸殻が落ちているかを知り、問題視視するようになった。「私はこれからポイ捨てはしない」「友達がしたら注意する」というコメントはかなり多くの学生が書いていた。
第4に、実際この3ヶ月で吸殻が捨てられている量が減っている。これは、僕もそう感じたし、学生課の職員が複数言っていた。学生がゴミを拾う姿を見て、ゴミや吸殻を捨てなくなった、あるいは意識するようになった学生が増えたとのだと思う。
第5に、大学側が学生の行動に対して評価をしている。そして、このキャンペーンを来年度は全額的なキャンペーンにするという方向性も出ている。学生の、30分の行動が大学にムーブメントを起こしたというのは、思わぬ副産物だった。
僕自身の学びとしては、なんといっても体験教育のパワーを再認識したことだろう。体験だけで全てが済むわけではないが、体験という方法が持つとてつもない教育力をもっともっと活用したいと考えた。
実はここ1ヶ月位、授業の単位が取れない学生向けに、フォロー講座をする。この講義は出来たら1年生の時にとってほしいし、何よりも元々150人いるのに、再履修の学生が増えると、とても授業がやりにくいということもある。もう一つは、フォロー講座は人数が少ないし、結構自由にやれるので、いろいろな試しが出来るという面白みもある。
今回も、既に3グループ+αが確定しているが、基本的に体験を中心とした何かをやっていこうと思っている。何かは何でもいいが、一つだけルールを設定しようと思っている。そのルールは「選択することがあったら、必ずかったるい方を選択する」というものだ。今の学生に多い、「かったるい」という価値基準を逆手にとって、かったるいを体験させたという意図もある。
このフォロー講座からは多分たくさんのことを学べるように思っている。